『夜道』 申京淑

c0077412_9391039.jpg『밤길』(신경숙著)
韓国語講座のテキスト。1985年に文壇に登場した著者が1990年に発表した短編である。なお、著者の申京淑については「韓国の著名人」のㅅのページにある신경숙をごらんください。
ある冬の日、雑誌社で仕事に没頭していた語り手のもとに、親しい友人グループの一人・イスクの訃報がもたらされる。訃報を聞いた仲間たちが寄り集まり、互いに顔を背けたまま哀しみ、互いに充血した目を隠すようにしてそれぞれ別の道を選んで帰途につく。そして語り手は、衝動的に駅に向かい、出発間際の夜行列車に飛び乗る。列車は語り手の故郷であるJ市方面行きであるが、ソウルを離れたかっただけで、行き先はどこでもよかったのだ。列車の中で語り手は、イスクがソウルを離れる直前に雑誌社に訪ねてきたときのことを回想する。そのときのイスクは、脚が異様に腫れていて、拒食症の症状もあり、変に気が高ぶっていて、語り手とできるだけ長く一緒にいようとしていた。仕事に追われていた語り手は、そんなイスクを追い帰してしまったのだった。イスクが雉岳山の麓に籠もり、仲間たちの名を呼びながら孤独の中で死んでいったのは半年も前の6月(1987年)、語り手たちが民主化闘争のデモに参加し、連帯意識に燃えていた時期だとわかり、語り手は愕然とする。
申京淑には珍しく、技巧の勝った難解な文で始まるが、それは最初の数段落だけで、あとはいつもの平明で簡潔な文で綴られている。夜行列車に乗り、乳飲み子を連れた若い母親とことばを交わし、J市に降り立って雪道を歩き、風呂屋で昔の同級生・ミョンシルと偶然出会い、ひととき童心に返って戯れ、修道院に戻る彼女を送っていき、また列車に乗ってソウルに向かう――という現在の場面と回想の場面が交互に語られていくうちに、語り手の動揺と混乱は少しずつ沈静化していく。
この作品から8年後の1998年に著者は、死んだ女性が霊魂となって仲間の一人一人に挨拶をしていく、という内容の作品『別れの挨拶』(原題は작별 인사)を発表している。イスクをむざむざと死なせてしまった自分たちではあるけれども、そんな自分たちのところにイスクの方から声を掛けてくれたら、という切実な願いが『別れの挨拶』には込められているのではないだろうか。(2010.6.25読了)
☆韓国語講座の先生によると「イスクの脚が異様に腫れていたのは、デモか集会の時に警察に捕まって拷問されたから」で、「イスクが死んだとき、語り手たちは民主化闘争の熱気の中にいたが、果たしてそれは一人の友人を見殺しにするほどの価値があったのだろうか、という反省が込められた作品」だということです。
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by nishinayuu | 2010-10-20 09:40 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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