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『ぼくの国、パパの国』(アユーブ・カーン=ディン著、鈴木小百合訳、白水社)

c0077412_9293752.jpg舞台劇のシナリオで、登場するのはイングランドのソルフォードでフィッシュ・アンド・チップスの店を営む夫婦とその子どもたち。夫のジョージ(55歳、別名ジンギス)はパキスタン出身で、故郷には第一夫人と家族がいる。イギリス人の妻エラとの間に6人の男の子と1人の女の子をもうけたが、長男は万事パキスタン流を押しつける父親に反発して家を出てしまった。それ以来、夫婦の間で息子の数が違っている。ジョージにとって息子は5人で、エラにとっては6人なのだ。
時は1970年。第3次印パ戦争の前夜である。ジョージはパキスタン人としてのアイデンティティーを堅持しようと、また子どもたちにもそれを自覚させようと必死になっている。末っ子・サジット(12歳)が割礼をすませていないことに気づくと、妻を責め立ててすぐさま受けさせ、長男の時の失敗に懲りずに次男と三男の結婚相手を勝手に決めてしまう。子どもは父親に従うのが当たり前、というわけだ。次男のアブドゥル(23歳)、三男のタリク(21歳)、五男のサリーム(18歳)、そして娘のミーナはそんな父親が煩わしいばかり。ただひとり、四男のマニーア(19歳、別名ガンジー)だけは父親と同じくパキスタン人として、ムスリムとして生きようとしている。
「多勢に無勢」であることと「地の利のなさ」でパキスタンの男としての誇りが保てなくなると暴力に走ったりするジョージ。パキスタン人の子どもらしく従順に両親の店を手伝いながらも、イギリス社会に適応して生きようとしている子どもたち。そんな夫と子どもたちの絆が切れないようにと心を砕くエラ。そんな一家を、エラの長年の友人であるアニーが温かく見守る。
取り上げ方によっては深刻で悲惨なものになりそうな話が、明るいタッチで軽快に描かれているこの戯曲は、1996年にバーミンガムで初演された後イギリス各地で人気を博し、1999年にはニューヨークでも大絶賛されたという。なお、舞台となっているソルフォードはイングランド中西部、グレーター・マンチェスター特別市に属する工業都市である。(2010.6.18読了)
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by nishinayuu | 2010-10-10 09:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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