『リリアン』(エイミー・ブルーム著、小竹由美子訳、新潮クレストブックス)

c0077412_1011241.jpgニューヨークで生まれ、心理療法士として働く傍ら小説家、脚本家としても活躍、現在はイエール大学の創作科で教鞭を執っているという著者による2冊目の長編小説で、原題は『Away』。1920年代にロシアの小村からアメリカに移住した一人の女性が敢行した波瀾万丈の旅の日々を綴った物語である。
ポグロムで両親と夫を無惨に殺され、3歳の娘も失ったリリアンは、従姉妹を頼ってアメリカに渡ると、敬虔なユダヤ教徒という過去に決別して新しく生きる覚悟を決める。機転と才覚をフルに使って富豪の劇場主ルーベンに認められ、彼とその息子マイヤー二人を相手に「愛人生活」を始めたのだ。ルーベンの親友ヤーコヴがそんなリリアンを、英語教師・人生の教師として支える。こうして何とか新しい人生に踏み出したリリアンのもとに、やはりアメリカに移住してきた別の従姉妹から衝撃的な情報がもたらされる。死んだと思っていた娘のソフィーが、近所の夫婦に拾われてシベリアに行った、というのだ。ここでリリアンの心は一気に娘の方へ、シベリアへと向かうこととなり、リリアンの「ソフィーを求めて三千里」の旅が始まるのである。
リリアンが住んでいたニューヨークからシベリアに行くには大西洋を船で渡り、ヨーロッパ大陸を横断しなければならない。しかし、ルーベンやマイヤーから金銭的な援助を拒否されたリリアンは、ヤーコヴの助言で、アメリカ大陸を横断して太平洋側に行き、さらに北上してアラスカからベーリング海峡を渡るコースをとることにする。ヤーコヴから渡された地図だけが頼りの、いつのたれ死にしてもおかしくない無謀な旅である。 汚れ、傷つきながらもひたすら歩き続ける健気なリリアン、彼女に手をさしのべる逞しい女たち、人間味のあるゆきずりの男たち――という登場人物の魅力と、アメリカならこんなこともあったかもしれないと思わせる説得力のあるストーリー展開で一気に読ませる傑作ノンフィクションである。
[PR]
by nishinayuu | 2010-09-25 10:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/15181137
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『紙魚家崩壊』(北村薫著、講談社) 『どちらでもいい』(アゴタ・ク... >>