『失われた時を求めて 3』(マルセル・プルースト著、鈴木道彦訳、集英社)

c0077412_10242644.jpgこの巻には原作の第二編『花咲く乙女たちのかげに』の第1部「スワン夫人を巡って」と第2部「土地の名・土地」が収録されている。
青年期にさしかかった語り手はジルベルトの男友達としてスワン家に出入りするようになっている。そこで語り手が目にするのは優雅なサロンの女主人に納まったスワン夫人・オデットと、昔とは別人のようなスワンの姿である。一流の人士だったスワンが、オデットのサロンに集まる格の落ちる人たちを、あたかも一流の人たちのように大切に扱い、彼らとの交流に満足しているようなのだ。そんなスワン夫人のサロンであるが、語り手はそこで作家のベルゴットに出会い、その意外な容貌にはがっかりするが、ベルゴットの話には興味深く耳を傾ける。ベルゴットが語り手を「すばらしく頭がいい」と褒めたと聞いて、両親は語り手がスワン家に出入りすることに反対しなくなる。
語り手はスワン家に足繁く出入りし、オデットやジルベルトと共に過ごす時を楽しむが、やがてジルベルトの心が語り手から離れて行き、手紙のやりとりもうまくいかなくなる。語り手はあれこれ策を弄してジルベルトの気持ちを取り戻そうとするがうまくいかずに苦しむ。
第2部は第1部の二年後の話で、語り手は祖母と一緒にバルベックに保養に行くが、この頃にはジルベルトとの交流は完全に切れており、語り手の心も彼女から離れて落ち着いている。母親との一時的な別れの方が語り手にとってはより大きな苦しみであり、悲しみなのだ。それでも語り手は汽車の旅を楽しむ。窓外を流れる風景の中に現れる田舎の家から姿を現して駅に向かってくる牛乳売りの少女を見ながら、あれこれ想像を巡らすときの幸福感、憧れていたバルベック教会を実際に目にしたときの失望感、バルベックのホテルに到着したときの複雑な緊張感などが、作者独特の綿密な筆致で語られる。(2010.6.9記)
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by nishinayuu | 2010-09-19 10:24 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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