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『アブサン・聖なる酒の幻』(クリストフ・バタイユ著、辻邦生・堀内ゆかり訳、集英社)

c0077412_8112123.jpg19世紀の世紀末にヨーロッパで大流行し、フランスでは1915年に全面的に禁止されたという神秘的なアルコール飲料・アブサンにまつわる幻想的な物語。
序章で語られるのは、普仏戦争の折に前線でアブサンと出合ったジャン・マルデという男の物語である。ジャンが前線から故郷に戻ってみると、村は葡萄の病害のせいで酒作りによる暮らしが立ちゆかなくなっていた。ジャンは妻子を村に残してアルゼンチンに渡り、働きながら故郷に仕送りを続けるが、そこで再びアブサンに出合って製造法をきわめると、再婚してその地に居着いてしまう。続く「ジョゼの道」と「アブサン」の章には私という語り手が登場し、語り手の少年時代に南フランスの片田舎の村でアブサン作りをしていたジョゼについて語る。語り手は、ジョゼが味わい深いフランス語で語るいろいろな物語を聞いたり、ジョゼが魔術師のように蒸留酒を造るのを眺めたりする。
そのあとの章、「大捜査」「感応」「禁止令」では、アブサンに魅せられていた語り手の両親のこと、アブサン禁止に到る流れのこと、そして1915年にジョゼが姿を消したことなどが語られる。
ところで、ジャンがアブサンと出合ったきっかけはリンドウで、アルゼンチンでもリンドウを見てアブサン製造にとりかかっている。しかしほとんどの場面でアブサンの主原料はニガヨモギ、と記述されている。ネットで調べたところ、ニガヨモギ(Artemisia absinthium)で作られた緑色のものが一般的で、南フランスではリンドウ(Gentiana scabra var.buergeri)で作られた黄金色のものもあったという。ところが、「アブサン」の章の3でジョゼは「金色の方は、ジャンティアナ・リュテアというアブサンなんだ。(中略)これは危険なアブサンだから飲んではいけない」と語り手に言って、そのアブサンの入った瓶を丘の上から投げ棄てている。そして「ジョゼが作っていたのはアルテミジア・アプシンティウムを使った純正アブサンで」という文が続くのであるが、同じ章の4になると「ジョゼの地下室の天井では、リンドウの詰まった大袋が乾かされていた(中略)この草はジョゼが摘んできたものだった」という記述が現れる。ジョゼが作っていたのはいったいどちらのアブサンなのだろうか。(2010.5.28記)
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by nishinayuu | 2010-09-10 08:11 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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