『叶えられた祈り』(トルーマン・カポーティ著、川本三郎訳、新潮社)
2010年 09月 04日
第1章「まだ汚れていない怪獣」、第2章「ケイト・マクロード」、第3章「ラ・コート・バスク」という三つの章からなり、前の二つの章はP・B・ジョーンズという主人公が語る物語になっている。南部で孤児として育った主人公は作家修業中のゲイで、マイアミ、ニューヨークでの生活を経てパリ、ベニス、タンジールなどを放浪し、セレブリティーの世界に寄生するようにしてのし上がってきた人物で、今はマンハッタンのYMCAに寝泊まりして『叶えられた祈り』という傑作を執筆中である。すなわちこの主人公の経歴はカポーティ自身のそれとほぼ重なっており、執筆の経緯がそのまま作品になる点やセレブリティーの世界を描いているという点で、この作品はうまくいけばアメリカ版の『失われた時を求めて』になったかもしれないのだ。
しかし結局、カポーティはプルーストにはなれなかった。セレブリティーたちを実名やすぐに誰とわかる形で登場させ、彼らの言動や彼らに関するゴシップを暴露したために、セレブリティー社会から総スカンを食ってしまったのだという。成り上がり者が身の程も弁えず、ということだろう。特に第3章は文学というより週刊誌のゴシップ欄の様相を呈していて、知らない社会を知る面白さはあるけれど、知る必要のない情報にもあふれていて、あまり愉快とは言えない。また、未完のため、第3章と前の二つの章との繋がりも判然とせず、文学作品という観点からも、『失われた時を求めて』には遠く及ばない。(2010.5.24記)
☆セレブリティーの社会、ゲイの社会、ユダヤ人かどうかを日常的に意識する社会――普段は縁のない世界を知るという点では得るところの多い作品ではありました。ところで、この文でゲイということばを2回も使ってしまったのが気になります。以前、メイ・サートンのある作品をアマゾンで検索したのですが、それ以来アマゾンから頻繁にレズビアン関係の本を勧めるメールが頻繁に送られて来るようになって参っています。検索履歴の利用を広く認める動きが進んでいるようですが、絶対反対!