『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(伊藤比呂美著、講談社)

c0077412_8352789.jpg2007年に発表され、第15回萩原朔太郎賞を受賞した作品。
カリフォルニアに家庭を持ちながら、熊本で老いてゆく両親の介護に通う日々を綴った奮闘記である。アメリカ西海岸から成田→羽田→熊本、という気が遠くなりそうな移動の時間と距離、日に日に著者への依存の度合いが増す両親、著者の保護下にあるためたびたび異文化空間に放り込まれて四苦八苦する10歳の娘、青年期の苦悩を抱えている大学生の娘、自分の肉体的衰えが承服できずにいらだつ「外人」の夫、こなさなければならない諸々の仕事とたまっていく疲労などなど、一人では抱えきれないほどの苦難をかかえて綱渡りのように過ごす日々が語られている。
そうした大変な日々を語っているのに、この作品には暗さも湿っぽさもない。音の連想、語句の連想、話題の連想を駆使した独特の語りには、新しい形の講談か落語といった趣があり、状況は深刻なのに思わず吹き出してしまう記述も頻出する。各章には「母に連れられて、岩の坂から巣鴨に向かう事」「渡海して、桃を投げつつよもつひら坂を越える事」など、意味深なタイトルがついており、章末には、「(宮沢賢治、中原中也、古事記、梁塵秘抄などから)声をお借りしました」という文がついている。この「声をお借りしました」が本文のどの部分を指しているのかを「当てる」、という楽しみも提供してくれる。(2010.5.5記)
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by nishinayuu | 2010-07-30 08:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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