『フィリップス氏の普通の一日』(ジョン・ランチェスター著、高儀進訳、白水社)

c0077412_1242995.jpg50歳の会計士であるフィリップス氏がある一日(1995年7月31日月曜日)にやったこと、見たこと、考えたことを綴った物語である。この日、フィリップス氏はいつものようにロンドン南西の郊外にある家を出ていつもの通勤電車に乗るのだが、なぜか途中で下りてしまう。ここから彼のいつもとは違う一日が始まる。すなわちこの日は、フィリップス氏が普通の一日のふりをして家を出て、普通の一日のふりをして帰宅した、全然普通ではない一日だったのだ。
フィリップス氏は性的妄想が激しいことを除けば、これといった特徴のないごく普通の男性である。そんな彼の目でロンドンを見て回り、生粋のロンドン子だという彼の心の声を聞くことができる仕組みになっていて、実によくできた楽しい作品である。
気に入った記述と気になった記述をいくつかあげてみる。( )内はnishinaの感想。
*フィリップス氏の意見では、これまでに作られた一番セクシーな映画は『若草の祈り』だ。そんなことは言ってはいけないのを知ってはいるが。――(『若草の祈り』のどこが?)
*(ヌード)写真の人物が誰かわかるというのは、ばつの悪いことになる場合もあるだろう。確かあなたをどこかでお見かけしましたよ、ナントカ夫人。いいえとんでもない、間違いに決まっておりますわ、牧師様。――(まずいですね、牧師様。)
*(彼はテムズ川で船に乗ったことはない。アルバート・ホールや下院に行ったこともない。)生粋のロンドン子たる者は、自分の生まれた都会でなにかしたり、なにかを見たりは決してしないものだからである。――(同感。東京っ子も東京見物などしないのです。)
*(浮浪者になったら一日中地下鉄に乗っていて、一日の終わりに)大きな鉄道終着駅に行く――多分、ユーストンやキングズ・クロスではないだろう。やたらにたくさんのスコットランド人、麻薬の売人、売春婦、ぽん引きなどなどがいるからだ。――(一日山手線に乗っていて、さてどの駅で降りるのが安全でしょう?)(2010.4.22記)
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by nishinayuu | 2010-07-17 12:04 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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