『真鶴』(川上弘美著、文藝春秋)

c0077412_8114545.jpg「歩いていると、ついてくるものがあった。」という文で始まり、語り手はこの「ついてくるもの」とことばを交わしながら自分のことを語っていく。12年前に突然姿を消した夫のこと、「近かった」のに最近は遠くなってきた中学生の娘のこと、夫の失踪後から同居している、夫を好いていなかった母親のこと、そして夫が失踪した2年後に出会って付き合っている男のことを。
「ついてくるもの」に気がついたのは一人で真鶴に行ったときだった。母親とデパートに行ったときにも見かけたそのものが、2日続けてついてきたので、語り手はまた真鶴に行こうと思った。夫と何か関係のある女だ、という気がしたのだった。娘が一緒に行くことになる。母親は「つよい場所はつかれるの」と歌うように言って同行をことわる。「母が近い」と語り手は思う。
夫の失踪という心の傷を抱えて生きてきた語り手に、「ついてくるもの」は何を言おうとしているのか。女三人の穏やかな日常の流れと、その陰にある二人の男たちと「ついてくるもの」という穏やかではないもう一つの流れが、独特のやわらかいことばで綴られていく。静かに深く心に染み入る作品である。(2010.4.15記)
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by nishinayuu | 2010-07-14 08:11 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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