『四月の痛み』(フランク・ターナー・フォロン著、金原瑞人・大谷真弓訳、原書房)

c0077412_850049.jpg老人ホームに入って7ヶ月になる86歳の男が、自分自身について、周りの老人たちについて、老いるということについて、死ぬことについて語る。日記の形になっていて、はじめの日付は4月2日、最後の日付は翌年の4月6日である。
25歳で法律事務所に入ったこと、法廷で見かけた女性に恋をして妻にしたこと、30歳のときその妻が死んだこと、その前にはたった一人の妹とも死に別れたこと、父の代からずっと仕えてくれたベイリーさんのこと、故郷の家のこと、家族のこと、初恋の相手ローラ・ベスのこと、検事や弁護士だった頃のこと、老人ホームに来ることになったいきさつなど、随所に差し挟まれたあれこれの思い出話によって語り手の経歴が明らかにされていく。しかし、より多くのことばを使って語られるのは、現在の心境と老人ホームの友人たちとの日々である。突飛なことを思いついては周りの老人たちを巻き込んで実行してしまうウェーバー、反対になかなか心を開かないロビンソン、アルツハイマーの妻のために入所してきた穏やかな人柄のシドニらとの交流が生む刺激的な日々に、思いがけない形で終わりが訪れる。
著者26歳のときの作品だという。未経験の壮年期や老年期の経験や心境に思いをいたし、リアリティーのある作品に仕上げた著者の力量には感じ入るばかりである。(2010.4.12記)
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by nishinayuu | 2010-07-08 08:50 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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