『昨日』(アゴタ・クリストフ著、堀茂樹訳、早川書房)

c0077412_8402949.jpg4冊目のアゴタ・クリストフ。前の三冊はクラウスとリュカについて語られた三部作だったが、今回の主人公はトビアスという青年で、双子の片割れではない。ただし、父親のいない家庭で貧しく育ったことと、将来はものを書く人間になろうとしていることは双子と共通する。また、トビアスは「父親を殺して」国外に脱出したという点でも三部作の双子の片割れとよく似ている。つまり、トビアスが異国で送っている生活は、双子の片割れが異国で送ったかもしれない生活のひとつの形を示したものと見ることもできる。
トビアスは今ではサンドールと名のっている。なにかと面倒を見てくれた小学校の教師で、実は血の繋がった父親である男の名前をとったのだ。長い間サンドールはリーナという女性の現れるのを待っていた。ある日サンドールの前に小学校時代の女友達・カロリーナが現れたとき、彼女こそが待ちこがれたリーナだったと気づく。彼女は昔自分の父親が世話をしてやった男の子が父親と同じ名を名乗っていることをおもしろがる。もちろん彼女は自分の父親とサンドールの母親との関係を知らない。サンドールとリーナの距離は急激に接近する。しかしリーナにはエリートである夫がいて、夫の仕事が終わりしだい国に帰ることになっていたのだった。
異国で生きるしかないサンドールの激しい恋とその顛末が、淡々とした筆致で綴られていて、それがかえって詩的な叙情を醸し出している。表紙のコラージュ(高木桜子:画)もうっとりするほど美しく、手元に置いておきたくなる本である(電子書籍の時代に何を言っているんだか)。(2010.4.5記)
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by nishinayuu | 2010-07-01 08:40 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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