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『失われた時を求めて 1』(マルセル・プルースト著、鈴木道彦訳、集英社)

c0077412_211669.jpg7編からなる原作の第1編「スワン家の方へ」のうち「コンブレー」の部分が納められている。
語り手は幼年時代を過ごしたコンブレーで、毎晩、ママンがお休みのキスをしに来てくれるのをベッドで待ち続けた。散歩道はゲルマントの方とスワン家の方の二つがあった。ゲルマントの方は名門貴族であるゲルマント侯爵の所有地のある方角で、スワン家の方は株式仲買人の息子でユダヤ人のスワンの所有地のある方角だった。ある日散歩の途中でスワンの娘・ジルベルトを見かけた……。これらの思い出が語り手の脳裏に事細かく鮮やかに浮かび上がったきっかけは、紅茶に浸したプチット・マドレーヌ(ただのマドレーヌではなくて貝殻模様のマドレーヌなのでした!)をひとさじ口にしたことだった。

20代の頃、「あたかも」や「まるで」で始まる比喩が頻繁に挿入されながら途切れることなく続いていく文体に見せられて夢中になって読んだ、特別な思い入れのある作品である。最近急にまた読みたくなって、その時に読んだ文庫本(訳は井上究一郎他)をとりだして読み始めてみたが、茶色く変色した紙面にびっしり並んだ細かい薄れた文字のせいで、なかなかのめり込めない。そこで、愛着のあった井上究一郎らの訳を離れて、集英社の鈴木道彦訳で読むことにした。旧訳と読み比べてみると、流れがつかみやすい平易な訳になっており、これはこれですばらしい。この新訳本にはキース・ヴァン・ドンゲンによる画も何枚か入っていて、ちょっとヘタウマ風だが、物語の雰囲気はよく伝わってくる。(2010.3.29記)
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by nishinayuu | 2010-06-19 21:16 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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