『南仏ラロックの旅人』(マティアス・アルテンブルク著、飯吉光男訳、講談社)

c0077412_1041245.jpg原題「Die Toten von Raroque」からわかるように、ドイツ文学である。作者は1958年にゲッティンゲンで生まれ、現在はフランクフルトで大学講師兼作家として活動しているという。
ドイツ人の主人公は、家庭も職場も放り出して車で南に向かう。国境を越え、フランス国内をさらに南下してスペインとの国境近くまでやってきた彼は、父親がドイツ軍人として滞在していたことのある町の名を見つけて、立ち寄ることにする。具合の悪くなっていた車を修理してもらったら、すぐに立ち去るつもりだった。ところが車の修理屋がなぜかはかばかしく仕事を進めないため、彼の滞在は一日、また一日と延びてゆく。町の人々は一目で彼がドイツ人であることを見て取るらしいが、ウエイトレスのナターリエのように警戒を見せる者もいれば、奔放な女教師のベルナデットのように誘いかけてくる者もいる。また、かつての忌まわしい出来事を彼に打ち明ける中老の紳士もいれば、下宿の女主人アルノーのように彼の前では全く感情を表さない人もいる。彼は彼でそのことを気に病む風もなく町の内外を見て歩く。
南仏の海辺にある小さな町とそこに暮らす人々が色彩豊かに鮮明に描写されていくが、主人公の表情や心情はつかみどころがない。ナターリエに惹かれながらベルナデットと関係を持ち、ドイツの蛮行を鮮明に記憶する人々の間をなんのこだわりもなさそうに動き回る主人公――ラロックにやってきたこの旅人は、明るい陽光の中でも、忌まわしい陰の部分に接しても、どこか上の空のように見える。もしかしたら彼の心は依然として、故郷に残してきた諸々のことにとらわれているのかもしれない。(2010.3.18記)
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by nishinayuu | 2010-06-13 10:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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