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『レディーメイド人生』 (蔡萬植著)

c0077412_8463155.jpg『레디메이드 인생』(채만식著)
蔡萬植は韓国の代表的な作家の一人で、長編『濁流』などで知られている。標記の作品は1934年に発表された短編で、韓国語講座の講読テキストとして読んだ。
日本の大学を卒業したPはソウルで職探しの日々を送っている。ソウルにはPと同様に就職できない高学歴の青年たちが大勢いて、下宿代を滞納したり、食事も満足に取れなかったり、と苦労している。時々同じ境遇の友人たちと酒を飲んで憂さ晴らしをするのがせいぜいだ。そんなPに故郷の兄が、息子を引き取れ、と言ってくる。数年前に離婚したとき兄に預けて、そのまま何年も会っていない息子だ。子育てを生き甲斐にして生きていきたい、という妻の願いを蹴ったのは、Pの悪口を聞きながら育った息子が後々こしゃくな態度をとるかもしれない、と危惧したからだった。その息子がもう学齢に達していた。Pが引き取って学校にやれ、と兄は言うが、学歴があっても人生は開けないことを体験上知っているPは、上京してきた息子を印刷所に預けるのである。
留学までした高学歴のPが、賢くて健気な息子には初等教育さえ受けさせないで工員にするという、息子にとってはなんともかわいそうな選択をする。元妻は息子に学校教育も受けさせて、と言っていたのにつまらない理由で息子を奪い取り、しかも何年も放っておいたあげく――とPを責めたくなるが、それは韓国の家族関係や当時の社会事情を無視した一方的な非難かもしれない。家族関係の問題はさておき、Pのような就職できない留学組高学歴者が多産された背景には、当時の支配者である日本が高学歴を煽りたて、就職についてはなんの対策も立てなかった、という事情があるからだ。つまりこれは日帝批判の作品なのだ。そんないわれのあるこの作品が、今回は幸い日本のせいではなく国内の事情によって高学歴者を大量生産している現在の韓国で、また新たに脚光を浴びているという。
なお、レディーメイドというのはMarcel Duchampの芸術作品に使われたことばと関連があるようなのだが、「レディーメイド人生」というタイトルの意味は今ひとつピンと来ない。(2010.3.12記)
☆『濁流』は三枝寿勝の訳で講談社から出ていますが、web情報によると現在は入手困難だそうです。
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by nishinayuu | 2010-06-07 08:47 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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