『臓器農場』(帚木蓬生著、新潮文庫)
2010年 06月 04日
聖礼病院は、美しい海と市街地が眼下に広がる小高い山の中腹にある。岩盤を背にして建てられた立派な施設と優秀なスタッフを有する総合病院で、とくに臓器移植手術で全国的に名を馳せている。しかしこの輝かしい業績を誇る病院には外部から遮断された陰の部分があった。病院内にある礼拝堂の奥には小さな扉があり、倉庫室の壁にも隠し扉があったのだ。
聖礼病院の秘密に気づいた新人看護師の規子と優子、そして医師の的場の三人は、その秘密を明らかにしようと動き始めたが、一人は運転中の車が崖から転落して死亡し、もう一人はケーブルカーの軌道近くで首つり死体となって発見される。二人の死は事故と自殺として処理され、なぜかマスコミにも報道されずに終わる。二人は殺されたと確信する残された一人は、ケーブルカーの車掌である青年とともに、身に危険が迫る中で真相の解明に邁進する。
タイトルからしてまがまがしく、目を背けたくなる場面描写も頻出するが、「生命」について、「生きている」ということの意味について、確固たる信念を持って書かれており、読後感は爽やかである。(2010.3.11記)