『ピアニストは二度死ぬ』(クリストファー・ミラー著、石原未奈子訳、ブルース・インターアクションズ)

c0077412_1020546.jpgこの作品は、架空の作曲家サイモン・シルバーの4枚組「公式記録音源」に添えたライナーノーツという形になっている。
語り手(すなわちライナーノーツの綴り手)は、伝記作家としてシルバー本人に雇われたノーマン・フェアウェザー・Jr.通称ノームで、各ディスクに入っている作品を一つずつ取り上げ、その作品にまつわるあれこれを語っていく。たとえば「カラス」という演奏時間4秒の曲は、数十羽のカラスが止まって鳴き立てている電線を五線紙に見立て、余分な一音(一羽のカラス)を銃で撃ち殺して他のカラスが飛び去る前の一瞬を捕らえて転写したものだという。
「カラス」からもわかるように、サイモンの作品は一般人の理解を超える非常に前衛的なもので、作曲家自身も前衛的というか、「超」の付く奇人である。さらに、サイモンについて語るうちにノームの人物像も明らかになっていくのだが、このノーム自身もそうとうな「変人」なのだ。社会への適応に困難がある「変人」のノームが、社会に全く適応できない「奇人」のサイモンの友情を求めて腐心したり、敵愾心をむき出しにしたりするさまは、時には痛々しくもあり、時には痛快でもある。
サイモンの幼少期ばかりかその生涯までも規定したといえる偏執狂的なサイモンの父親をはじめ、風変わりな人々とそのエピソードを創造し、さらに数十曲に及ぶ架空の作品について、その制作のいきさつや譜面、演奏方法、音の響きなどの細部に至るまで綿密に創造した作者の力量(と執念)に驚嘆させられる。(2010.3.8記)
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by nishinayuu | 2010-06-01 10:20 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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