『たんぽぽのお酒』(レイ・ブラッドベリ著、北山克彦訳、晶文社)

c0077412_9165593.jpg作者ブラッドベリの少年時代と重なる、1928年6月から8月末にかけての一夏の物語。所はイリノイ州の、荒野と隣り合わせの小さな町。
弟のトムは何でも統計にとって頭の中にため込む。弟の統計に触発された兄のダグは、夏を「慣例と儀式」と「発見と啓示」の二つの部分に分けて記録を取り始める。この12歳と10歳の兄弟を中心にして、一夏のさまざまなできごとが綴られていく。
「山ぶどう摘み」、「たんぽぽのお酒造り」、「テニス・シューズ」などは、生きる喜びと夏の感動にあふれる話。おじいさんにとって欠かせない夏の儀式の一つである「芝刈り機の音」は、下宿人の青年ビル・フォスターの思いつきによって危うく喪失しそうになるが、おじいちゃんの思いを知ったビルがすんなり譲歩したため元通りに続くことになるし、レオ・アウフマンは「幸福マシン」では得られない本当の幸福を発見する、という具合に冒頭から数話は楽しいエピソードが続く。ずっと後に出てくる話だが、郵便配達人の妻・エルマイラに魔女と決めつけられたクララ・グッドウォーターが、調子に乗って魔女を演じてみせるエピソードも愉快。
しかしダグとトムの夏の日々はそれだけでは終わらない。ミス・ファーンとミス・ロバータの「グリーン・マシン」は事故をきっかけに、トリデンさんの「市街電車」は時代の流れによって、この夏で姿を消すことになる。また、フリーリー大佐の「タイム・マシン」も大佐の死とともに消え、ダグの親友ジョン・ハフは遠くの町に去る。他にも「孤独の人」による連続殺人もあれば、おおおばちゃん(おばあちゃんの母親のこと)の死もある。
喜びと感動、哀しみと恐怖などさまざまなことを体験したり、目撃したりしながら二人の夏は過ぎて行き、ついにダグは疲れ果てて高熱を出してしまう。ダグの熱病を治したのは、捨てられた物を欲しい人に配って歩くジョウナスさんの「清涼空気」だった。このあと、「おばあちゃんのすばらしい料理」のエピソードがあり、10セント・ストアに一万本の鉛筆が並んだところで、長くて短かった夏は終わるのである。(2010.2.15記)
[PR]
by nishinayuu | 2010-05-02 09:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/14291962
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『二つのプラハ物語』(リルケ著... 『何かが道をやってくる』(レイ... >>