『半島へ、ふたたび』(蓮池薫著、新潮社)

c0077412_945531.jpg2009年6月に発行されたもので、二つの章からなっている。
「僕がいた大地へ」と題した第一部は、拉致被害者として24年間暮らした半島を[再び]、ただし北ではなく南のソウルを[初めて]、訪れたときの旅行記である。初めて訪れる旅行者らしい驚きや感動が活き活きと語られているが、それだけに留まらず、北に拉致されていた著者ならではの視点と考察によって深みが加わった読みでのある旅行記になっている。
「あの国の言葉を武器に、生きていく」と題した第二部には、あれこれの模索を経て翻訳家として自立するまでの過程が綴られている。生きた日本語に接することが困難だったと思われる、いわば空白の24年間のあとで、翻訳によって身を立てるというのは並大抵のことではない。帰国後しばらく文を書く仕事に縁があったこと、翻訳家の友人がごく身近にいて後押ししてくれたこと、なども幸いしただろうが、著者自身が並大抵ではない信念と努力の人であること、そしてなによりも著者が並大抵ではない資質の持ち主であるからこそ、短期間で翻訳家の道を歩み出すことができたのだろう。金薫の作品に付けた邦題『孤将』からも、翻訳家としてのセンスのよさが窺える。そして、金薫や孔枝泳など、韓国でも評価の高い作家たちとの巡り会いも、信念と努力の人であると同時に資質の備わった著者だからこそ与ることのできた天の恵みではないだろうか。(2010.1.31記)
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by nishinayuu | 2010-04-12 09:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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