『ポラーノの広場』(宮沢賢治著、筑摩書房)

c0077412_9422441.jpg宮沢賢治の長編童話4編のひとつ。 『星の牧場』を読んだ流れで、久しぶりにまた読んでみた。
舞台は「すきとおった風と夏でもそこに冷たさをもつ青いそら」のイーハトーヴォで、前十七等官レオーノ・キューストの日誌を宮沢賢治が訳述した、という体裁になっている。プロローグに「みんなむかし風のなつかしい青い幻灯のように思われます」とあるように、各場面の空気が独特の色や香に満たされており、それらの場面が次々に映写されていくような感じで物語が展開する。
登場するのは上記のレオーノ・キューストをはじめとして、ファゼーロ、ロザーロ、羊飼いのミーロ、地主のテーモ、山猫博士のデステゥパーゴなど、イーハトーヴォの住人にふさわしい国籍不明の名前の持ち主たちである。レオーノ・キューストとファゼーロ、ミーロの三人は、アカシアの青みがかる季節に「そこらはむっとした蜜蜂のかおりでいっぱい」の野原を「シロツメクサの灯り」を数えながら、夏祭りが行われているというポラーノの広場を目指す。
ところで、毒蛾の発生で機能が麻痺したセンダード市で怪しい人物のデステゥパーゴがひげを剃らせている場面でさえ、幻想的な美しさに包まれているのだが、一方で「理想の広場は探し求めるべきものではなく、自分たちの手で作るものだ」というメッセージがかなり生の形で表出されている。この作品に出会った頃はそうしたものに日常的に接していたので、さらっと読み流してしまったのだろうか。これまで、この作品が長編童話4編の中で、いちばん影が薄くて語られることが少ないのを残念に思っていたのだが、今回読み返してみて、その理由がわかったような気がする。イーハトーヴォの夢のような美しさを存分に味わわせてくれる作品であることに変わりはないが。(2009.12.14記)

☆動植物の名や一般的なカタカナ語はふつうに表記されていますが、人名、地名はエスペラントの原則――名詞の語尾は[o]の音をもつ――に則ってアレンジされているので、もとの形を想像しながら読む、という楽しみかたもあります。地名はモリーオ「盛岡」、センダード「仙台」、というぐあいにどれも簡単にもとになっている語が見つかりますが、ただ一つ「イーハトーヴォ海岸の一番北のサーモの町」というのがよくわかりません。なお、人名やその他のカタカナ語について解説した「我田引水エスペラント」という面白いサイトが見つかりましたので紹介します。http://www.ncn-k.net/opera/old/2004/word.htm
なお、画像は「ちくま文庫」のものです。
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by nishinayuu | 2010-02-16 09:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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