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『母の家で過ごした三日間』(フランソワ・ヴェイエルガンス著、渋谷豊訳、白水社)

c0077412_11152884.jpg長く映画界で活動してきた著者が2005年に発表した作品で、その年度のゴンクール賞を受賞している。
母親の最期を看取った三日間の出来事と母親の思い出を綴った作品か、と思わせるタイトルだが、さにあらず。ここに登場する母親は、5人の娘と一人息子の「語り手」と離れて、一人で田舎暮らしをしている元気溌剌とした母親である。夫の死後数年経つと、いくらか年下の男と「新しい生活に踏み出す」ことを考えるような若々しい女性なのだ。母親だけでなく、ここに登場する女性たちは言うこともやることもうじうじしたところのない、颯爽とした女性ばかり。
それに比べると「語り手」は5人姉妹に囲まれた男の子がそのまま年を取ったようなちょっと甘ったれで、根性のなさそうな感じの男性である。なぜなら彼は『母の家で過ごした三日間』というタイトルの本を書くことを出版社と約束していながら、書けない状態を何年も引きずっており、その間に妻以外の女性たちと適当にアヴァンチュールを楽しんだりしているのだ。その悶々とした「書けない」状況が、母の怪我・入院という思いがけない出来事によって一挙に解決する、というなんとも都合の良い、人を食ったようなお話である。
さて、この作品のいちばん際だった特徴は構成のユニークさだ。著者のヴェイエルガンスが「語り手」として登場させた書けない作家のヴェイエルグラッフが、その作中人物として書けない作家グラッフェンベルグを「語り手」として登場させ、その彼がまた自分の作品に書けない作家ヴェイエルスタインを「語り手」として登場させる、という形になっている。ちょっとややこしそうに見えるが、どの「語り手」もフランソワという名前を持ち、溌剌とした母親と颯爽とした女性たちに囲まれた書けない作家であって、つまり一人の作家の悩みが重層的に語られる、という仕組みなのだ。
またこの作品は、メインのストーリーのそこここに、「語り手」の才気あふれる脱線話――なんと永平寺や備前焼などの話も――が挿入されていて、思わずうなったり吹き出したりさせられる。電車の中などで読むときは要注意の作品である。とにかく非常に気持ちよく読める楽しい読み物である。(2009.11.19記)
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by nishinayuu | 2010-01-23 11:15 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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