『四重奏/目』(ウラジーミル・ナボコフ著、小笠原豊樹訳、白水社)

c0077412_11153087.jpg白水社「新しい世界の短編」シリーズの8(1968年6月5日発行)。「四重奏」というタイトルでくくられた小説4編と、「目」と題する小説1編、合計5つの小説を収めた短編集である。
『名誉の問題』――ドイツに住むロシア人亡命者のアントン・ペトローヴィチは、同じ亡命者のベルクに細君を寝取られたことを知って、彼に手袋を投げつけた。決闘の申し入れである。男としては決闘しか道はないのだ。しかし、彼には自分の決闘が現実のものとは思えない。それなのに事はどんどん運び、介添人が決まり、場所や時間、武器などが決められて行く。彼はもう後へは引けない。いや、逃げ出してしまう手もある。もしかしたら、相手のほうも逃げ出すかも知れない。追い詰められたアントンの妄想は広がって行く。
『リーク』――亡命ロシア貴族の美貌の青年という役で芝居の世界で生きているリークは、ロシアについては朦朧とした幼年期のイメージしか持たない孤独な青年である。それに、彼の役柄は無意味で、演技改良の可能性もなかった。それでも彼は舞台へ登場する度に神秘的な喜ばしさを感じるようになっていた。そんなある日、リークが意識のいちばん奥へ追いやっていた忌まわしい人物・従兄弟のコルドゥーノフが立ち現れて……。
『博物館を訪ねて』――「私」はある肖像画の所在を確かめるために、地方にあるとある博物館を訪れる。そんな肖像画はないという守衛に監視されながら館内を見て回ると、問題の肖像画があった。買い取りの交渉をするために博物館長の許を訪れると、館長もそんなものはカタログに載っていない、と存在を否定する。それで館長をくだんの肖像画のところに連れて行く。折から館内には観光客がなだれ込み、乱暴狼藉を繰り広げる。やむを得ず、「私」と館長が別の部屋に移動すると、またそこに人びとが押しかけるので、また別の部屋へと移動することになる。こうして、はじめは陳列室が二部屋あるだけに見えた博物館の空間は異様に膨張していき、予想を超えた光景が展開していく。

☆訳者はあとがきで、『名誉の問題』『目』『リーク』『博物館を訪ねて』『ヴェイン姉妹』の順に読むことを勧めています。そうすれば20年代から50年代に至る亡命ロシア人の精神の道程を推し量ることができるだろう、というのです。こういう情報はあとがきではなく前書きで提供して欲しかった! おもしろさの順を言えば私の場合、『博物館を訪ねて』『名誉の問題』『目』『リーク』『ヴェイン姉妹』でした。(2009.10.20記)
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by nishinayuu | 2009-12-25 10:06 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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