『万葉集の環境と生活』(高野正美著、笠間書店)

c0077412_10511290.jpg「万葉集を多少読んだことのある人が万葉の世界をもっと知りたいという時の手引き」である。
「歌の環境を読み解く」と題した前半では、歌を取り巻く歴史的・社会的環境、自然・地理的環境が復元されており、作者がどのような状況の下で歌を詠んだのかが明らかにされる。たとえば
あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり(巻3・328)
という歌に関しては次のように解説される。
美しく彩られた建物や人びとでにぎわう光景を思い描いてしまいがちだが、当時の平城京は中央に幅72㍍の大路があり、大路沿いは宅地で、上級貴族以外は大路に面して門を作ることが許されていなかった。都の人口も貴族、下級官人、一般人を合わせても5万から10万程度で、官人が通勤する時間帯以外は人影もまばらで閑散としていたと思われる。ところが作者・小野老がこの歌を詠んだ天平元年(遷都から19年後)の頃は丹塗りの柱・白壁という中国風の邸宅の建築が許されたこともあって、華麗な邸宅や庭園が見られるようになったばかりでなく、工事関係者でにぎわっていた。作者はこうした建設途上の活気に満ちた様子を「咲く花のにほふがごとく」と比喩したのであって、完成された都の美しさを漠然と読んだわけではない。

「歌の生活を読み解く」と題した後半(というより本書の大半を占める部分)では宴、旅、恋、死を中心とした歌のありさまが当時の生活と関わらせて解説されている。さまざまな地図や表も掲げられており、万葉集をより深く味わうための格好の参考書となっている。(2009.9.29記)
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by nishinayuu | 2009-11-21 10:51 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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