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『風の影』(カルロス・ルイス・サフォン著、木村裕美訳、集英社文庫)

c0077412_1727994.jpg1945年、長い夏が始まりかけた日に、10歳の少年ダニエルは古書店を営む父に連れられて「忘れられた本の墓場」を訪れる。父によると、世間から忘れられた本が最後に辿り着いて生き続けるというこの場所に初めて来た者には、どれか一冊の本を選んで自分のものにする権利と、それを守り続ける義務があるという。こうしてダニエルはフリアン・カラックスの『風の影』と出合ったのだった。タイトルも著者名も初めて聞くこの本を選んだときから、ダニエルはカラックスと『風の影』を巡る謎に引き込まれて行き、その過程で元出版社の社員であるヌリアという女性(「忘れられた本の墓場」の管理人の娘)と知りあう。
ダニエルの現在である1940~1950年代、カラックスが青年期を生きた19世紀末から1920年頃まで、そしてヌリアが回想するスペインの内戦時代が、はじめはそれぞれの物語を紡いでいるが、やがてカラックスとヌリアの隠された過去が、そしてかつてのカラックスと現在のダニエルの奇妙で不気味な重なりが露わになっていく。
多彩な登場人物がそれぞれの場面で生き生きと描かれているが、特に魅力的なのがホームレスとして登場したあと瞬く間に有能な古書店員に変身して大活躍するフェルミンという人物である。このフェルミンもヌリアも大きな秘密を抱えながら健気に生きているのであるが、フメロ(バルセロナ警察の刑事部長)という「過去」の幻影が立ち現れて彼らの穏やかな日々に暗い影をさす。フメロの部下であるパラシオス刑事は、主要人物ではないけれどもなかなかいいキャラクターの人物である。ミステリー仕立ての物語の中で、一番の謎の人物はもちろんフリアン・カラックスであるが、この人物の謎は案外早い段階で見当が付いてしまうのが、ちょっと残念でもあり、読んでいて安心でもある。
『幽霊書店』、『月魚』、そして『風の影』――「古書店」を巡る物語はどうしてこんなに面白いのだろうか。
(2009.9.25記)
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by nishinayuu | 2009-11-18 17:27 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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