『興夫(フンブ)伝』
2009年 11月 12日
『興夫(フンブ)伝』は朝鮮時代の口承文学で、聴衆の反応をみて適宜変更を加えながら語り継がれてきたものである。
登場するのはフンブ(弟)とノルブ(兄)の兄弟。朝鮮時代の相続制度に従って親の遺産を全部継いだノルブは豊かな生活を享受している。一方、何も持たないフンブは貧乏なうえに子だくさん。明日の米どころか今日の米にも事欠く生活で、たびたびノルブに泣きつくが、ノルブはそんな弟を冷たく突き放す。そんなある日、フンブは脚の骨を折った燕の子を見つける。巣が蛇に襲われて、地面に堕ちてしまったのだ。フンブは燕の子を丁寧に治療して直してやる。翌年、南の国から戻ってきた燕はフンブに瓜の種を授ける。その種を育てると大きな瓜がたくさん成って、中から財宝、家財道具、家までがざくざくと出てきて、フンブは大金持ちになる。それを聞いたノルブ。燕の巣に蛇をけしかけるが、うまくいかないので燕の脚をわざと折ってから治してやる。ノルブを恨みながら飛び去った燕は翌年、ノルブに瓜の種を授ける。大きく実った瓜を一つ割ってみると、中から三人の男が現れて兄弟の親が残した借金の後始末を要求する。次の瓜からもノルブの災いになるものが現れ、ノルブはさんざんな目に合うが、今度こそはという欲からノルブは次から次に瓜を割り、お金を取られ、むち打たれ、汚物を浴びせられて、身体はぼろぼろ、財産はすっからかんになってしまう。そんなノルブをフンブは温かく自分の家に迎え入れてやるのである。
舌切り雀と同様の、勧善懲悪、因果応報の物語であるが、舌切り雀の場合は良い葛籠も悪い葛籠も一個ずつなのに、フンブ伝の瓜はどちらもやたらに数が多い。何度ひどい目にあっても懲りずに瓜を割るノルブの執拗さにはあきれるのを通りこして感嘆してしまう。最近の韓国では、教科書的な模範人物であるフンブよりも、より人間的で「努力の人(確かに!)」であるノルブの人気が高いそうだ。(2009.9.18記)