『赤い薔薇ソースの伝説』(ラウラ・エスキヴェル著、西村英一郎訳、世界文化社)

c0077412_10363045.jpg著者は1950年生まれのメキシコの脚本家で、1990年に書かれたこの作品は彼女の最初の小説である。原題は『ココアのためのホットウォーターのように』で、本書のタイトルは、この原作をもとに制作されてヒットした映画のタイトルからとられている。

「玉葱はみじん切りにする」と語り始めるのは玉葱に敏感な体質を母の叔母から受け継いだ一人の女性で、彼女は最初の4行で舞台から去り、物語の最後に再び登場して父親のためにクリスマス料理を用意しながら「どうしても涙がとまらない」と漏らす。その間を埋める長い物語の主人公は「母の叔母」であるティタである。
ティタが生まれた翌日父親が梗塞で死去し、そのショックで母は乳が出なかったため、ティタは台所女のナチャに託された。その日から台所がティタの世界になった。ナチャといっしょに料理をし、ナチャを相手に遊んだ。15歳のとき恋人ができたが、その恋人は姉のロサウラと結婚した。母親のエレーナが「末娘は一生親の面倒を見るものだ」という考えだったから。そして恋人のペドロはペドロで、ロサウラと結婚すればティタの傍にいられる、と思ったからだった。

メキシコ革命(1910~1917)を背景に、ティタのペドロへの愛と母親エレーナとの葛藤の歳月が、一年の各月に作られる12種類の料理とともに綴られていく。料理のレシピの細かさと色鮮やかさにも圧倒されるが、この物語を特徴付けているのはなんといっても、物事や人びとにまつわる不可思議な現象の数々である。すなわちティタは伝説の時代の人物なのだ。そんな時代の因習に縛られた世界で育ったティタであるが、彼女がやはり台所で育て上げた姪のエスペランサは、「ハーバードの博士課程に入ることになっている青年と結婚し、結婚式がすむとすぐアメリカに出発する」現代の女性なのである。(2009.9.17記)
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by nishinayuu | 2009-11-09 10:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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