『人間失格』(太宰治著、新潮文庫)

c0077412_16315276.jpg読書会「かんあおい」2009年9月の課題図書で、メンバーのほとんどが新潮文庫で読んでいる。我が家には筑摩書房の新旧2種類の全集があってそのどちらにも収録されているが、今回は目も手も疲れない電子図書の「青空文庫」で読んだ。
始めに三枚の写真が紹介される。1枚目は笑顔を作っているが実は笑っていない醜い子ども、2枚目は端正な美貌ながら作り物の笑いを浮かべた気味の悪い学生、3枚目は表情も印象もない奇怪な老人の写真である。この三つの顔を持った主人公の半生が、それぞれの「手記」という形で三部にわたって綴られている。
「第一部」――東北の金持ちの大家族の中で、人とつながるために考え出した「道化」で周りを騙し続けたが、人間不信と孤独に苛まれていた小学生時代。
「第二部」――「道化」が板について気楽に人を欺いていたのに、頭の悪い竹一に見破られたため、竹一を手なずけ、しまいには竹一から「おまえはきっと、女に惚れられる」「おまえは偉い絵描きになる」という二つの予言を得た中学時代と、堀木という悪友から酒・煙草・印旛畏怖・質屋と左翼思想を教えられ、心中事件を起こした東京の高校時代。
「第三部」――粗悪な雑誌に漫画を書いて暮らすようになり、女性遍歴を繰り返しては失敗し、しまいにモルヒネに溺れて脳病院に収容されるに到った過程と、「今は自分には幸福も不幸もない」というその後の人生。「人間失格」というのは当人の自覚ではなく、他人から押された烙印だった。
詳細な自己分析と周到な弁明にあふれた「手記」は説得力があるが、それに魅了されるというところまでは行かなかった。昔読んだときもそうだったし、読書会のメンバーの感想もほぼ同様だった。この作家の熱烈なファンというのは、この作家と出会ったときのバイオリズムの関係でこの作家にと取り憑かれてしまった幸運な、あるいは不運な人たちに違いない。(2009.9.13記)

☆画像は岩波文庫のものです。
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by nishinayuu | 2009-11-05 16:32 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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