『津軽』(太宰治著、小山書店)
2009年 11月 03日
本文のはじめの方に、「津軽のことを書いてはどうか」という話が来たので1944年5月に津軽地方に出かけたとある。同年、小山書店から発行されているので、旅行したあと間もなく原稿ができあがっていることになる。なんとも勤勉な作家である。
紀行文と自伝を合わせたような作品である。紀行文的性格の強い部分では、「津軽」に含まれる都市や町の紹介や、「津軽凶作年表」(元和元年~昭和15年)、京の名医・橘南谿の『東遊記』、『日本百科大事典』などが長々と引用されている。自伝的性格の強い部分では、中学、高校時代の学校生活や友人たちの思い出が語られているが、圧巻は「3歳から8歳まで育ててくれ、私の一生を確定した母のような人」である「たけ」に、汽車やバスを乗り継いで小泊まで、ほぼ30年ぶりに会いに行くエピソードである。
ところどころに、「国防上、風景や海山の形状についての詳しい描写は避ける」といった、当時の緊迫した国情が窺える文が挿入されていて、はっとさせられる。(2009.9.9記)
☆画像は新潮文庫のものです。