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『私事広告欄』(アール・デア・ビガース著、林清俊訳)

c0077412_1340521.jpg1914年7月24日(金曜日)、ジェフリー・ウエストはロンドンのホテルの朝食室で、いつものようにデーリー・メール紙の私事広告欄、俗称「苦悶の欄」を読みながら、ウエイターお勧めのイチゴを食べている。そのとき、朝食室の入り口に鈍い金髪にすみれ色の目をしたアメリカ女性が現れる。ジェフリーは「ヨーロッパに来て六ヶ月経つが、そこで見た最も美しいものが祖国から来た人だとは!」と感嘆する。
彼女はウエイターの勧めを断ってグレープフルーツを注文する。それを見たジェフリーはわざと二皿目のイチゴを注文する。彼女はちらっとジェフリーを見たあと、手にしていたデーリー・メールを広げて私事広告欄を読み出す。
翌日の土曜日、ジェフリーはホテルに行かなかった。女性のほうは私事広告欄に彼からの誘い文を見つける。「イチゴを二皿食べた男性からイチゴよりグレープフルーツを好むお嬢さんへ。またお会いしてお話ししたい」。そして29日(水曜日)の私事広告欄に、ジェフリーが待ちに待っていた女性からの返事が載った。「7日の間、毎日一通ずつ手紙を書くことを許す。その手紙で楽しませてくれたらつきあってもよい」。
こうしてジェフリーは彼女に最初の手紙を書く。アパートのすばらしい中庭のこと、スイスで出合ったイギリス青年のこと、真上の部屋に住むスティーブン・フレイザー大尉のこと、などなど。そして第二の手紙では「驚くべきぞっとする事件」が報告される。大尉がナイフで心臓を刺されて殺されたのだ。
大尉殺害事件は思わぬ方向に展開し、ついにジェフリー自身が拘束されるところまで進んでしまう。そのいきさつは毎日の手紙で事細かく女性に報告される。一方、世間はセルビアの事件に端を発した大戦争の始まりを前にして騒然としている。女性とその父親も、便船のあるうちにアメリカに帰らねばならない。手紙の主の身が危機的状況にある中で、彼女のロンドン滞在の期限は迫る。
第一次境大戦前夜のロンドンを舞台にしたスコットランド・ヤードも巻き込むスパイ事件を、手紙の受取人の女性とともにハラハラドキドキしながら見守る、という趣向のエンターテインメント小説である。(2009.8.21記)

☆『幽霊書店』『火星の記憶』に引き続いて「青空文庫」で読みました。この訳者の訳した作品はこれまでのところ全部アタリです。ただし、『私事広告欄』でははじめホンブルグ帽となっていたのが後のほうではフンボルト帽になっていたり、5番目の手紙が届いたのは8月3日のはずなのに8月1日になっていたり、とちょっと雑な点が気になりました。
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by nishinayuu | 2009-10-08 13:40 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by nishinayuu at 2011-04-15 17:29
H様、まさかお目にとまるとは思わず、好き勝手なことを書いてしまいました。ファンのたわごとと思って、大目に見てくださいますよう。
非公開表示を見落とし、一時的にコメントを公開してしまったこと、お詫びします。
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