『六号室』(アントン・チェホフ著、瀬沼夏葉訳、筑摩書房)

c0077412_21441762.gifある町立病院に本棟とは別に六号室と呼ばれる建物がある。そこは特別な患者を収容・監禁しておく所で、兵隊上がりのニキタが小遣い兼監視人を務めている。収容されているのは中風病みの男、元帽子製造業のユダヤ人、鈍い動物のような農夫、元郵便局員、そしてイワン・デミトリチ・グロモフの5人。イワン・デミトリチは郡立学校の教師、裁判所の警吏、県庁の書記などの経歴を持つ33歳の男で、議論は過激だったが町の人びとに愛され、生き字引とされていた。しかし神経質な彼は、なにかの間違いで捕らえられ、獄に繋がれはしないか、と怖れていた。因みに彼の父親は詐欺と公金浪費で裁かれ、監獄病院で死んでいる。怖れが昂じて仕事が手に付かず、挙動もおかしくなったイワン・デミトリチは町立病院の六号室に入れられてしまう。この町立病院は不潔この上ない上に乱脈経営というひどい有様だが、院長には「気力と権力に於ける自信」が足りないため、これを正すことができない。院長はもともと医者になりたくてなったわけではないので、診察は適当にさぼって書見に耽っている。この院長が六号室のイワン・デミトリチのもとに頻繁に通うようになる。この患者が「ともに語れる人間」だと感じたからだ。しかし「ここから出せ」というイワン・デミトリチに院長は告げる。「監獄だとか瘋癲病院だとかの存在する以上は誰かが其中に入ってゐねばなりません。」そして院長のこのことばが、後々そのまま院長に跳ね返ってくるのである。(2009.8.13記)

☆この作品は「青空文庫」で読みました。底本は明治文学全集(1965,筑摩書房)、底本の親本は「露国之文豪チェホフ傑作集」(1908、獅子吼書房)だそうです。なるほど、文体、用語、用字がいかにも古めかしく、それが独特の雰囲気を醸し出していてなかなかいい感じです。
☆総ルビなので、たとえば「最と満足げに」の「最と」の読みにも迷わずにすみます。ただし、第5章に出てくる「べっそりした髪」は意味がつかめなかったので、中村白葉訳を見てみました。「癖のない頭髪」となっていました。
☆画像は「グーテンベルク21」のものです。
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by nishinayuu | 2009-10-01 21:44 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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