『幽霊書店』(クリストファー・モーリー著、林清俊訳、青空文庫)

c0077412_23461057.jpg1919年出版の作品で、作者クリストファー・モーリー(1890~1957)はニューヨーク・イヴニングポストのコラムニストだった人。シャーロックホームズの大ファンで、Bake Street Irregularsクラブの設立に参与したという。
物語の舞台はパルナッソスの家と称する古書店。その名にふさわしく、店内には珍しい本、貴重な本がぎっしり詰まっていて、大変な読書家である店主のロジャー・ミフリンでさえとても全部は読み切れない。それでミフリンはこの店を「主が読んでいない本の幽霊に取り憑かれている書店」という意味で「幽霊書店」と呼んだりもする。すなわちこの作品は題名から連想されるようなオカルトやホラーではなくて、ミステリー仕立ての事件ものである。
ある日、カーライルの『クロムウェル伝』が店の書棚から消え、翌日いつの間にか戻されているのだが、表紙がすり替えられている。広告のセールスのために店にやってきて店主と親しくなった青年オーブリー・ギルバートが、古書店と同じ通りにある薬局で問題の本の表紙を見つけ、ポケットに隠して持ち出すと、何者かに襲われる。ここから、古書店に危険が迫っていることを感じたオーブリーの活躍が始まるのであるが、カーライルの『クロムウェル伝』の盗難事件は思いがけない方向に発展して行く。
というわけで、前述したとおりミステリー仕立ての事件ものではあるが、それよりなによりこの作品を特徴付けているのは、書物に関する蘊蓄である。博覧強記な古書店主ミフリンを生み出した作者の博覧強記ぶりに驚くと同時に、それらを訳出した上に各所にさらに微に入り細にわたる注まで付け加えている訳者の博覧強記ぶりに驚く。もしそんなジャンルがあるなら、ミステリーではなく「蘊蓄小説」に分類すべき作品である。(2009.8.7記)

☆この翻訳作品は「青空文庫」のオリジナルです。画像はBiblio Bazaarのものです。
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by nishinayuu | 2009-09-24 09:52 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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