『家常茶飯』(ライネル・マリア・リルケ著、森鴎外訳、岩波書店)

c0077412_15105272.jpg家常茶飯には「かじょうちゃはん」とルビがついている。著者名のライネル・マリア・リルケは、現在はライナー・マリア・リルケのほうが一般的であろう。以上のことからも想像できるように、語彙や文体は現代文のそれとはかけ離れている。訳者が森鴎外、とくれば納得できることだが、それにしてもゴミ(塵)が「五味」と表記されているのにはびっくりして、思わず辞書で確かめてしまった。夏目漱石は自己流の当て字が多いことで有名だが、鴎外先生もやってくれている!
この作品は戯曲の形式で書かれており、始めに舞台の大道具、小道具の描写があるのだが、この部分を読むだけで疲れてしまうほど詳細かつ丁寧にある部屋の様子が描かれている。登場人物はこの部屋の住人である画家とその姉のゾフィイ、画家の友人である医学士ロイトホルド、モデルのマッシャ、令嬢ヘレエネ、そしてマッシャといっしょに画家の部屋を掃除するおかみさん。
画家は最近、出歩くことが多くて絵から遠ざかっているが、暮らしには困らない身分である。そんな彼のところへ、母親の世話をしながら暮らしている姉のゾフィイが様子を身にやってくる。ここで姉が親の介護について述べたことばは、ストーリーには直接関係はないが「至言」である。
友人の結婚披露パーティーでヘレエネに出合って「すっかり意気投合した」画家は、彼女と画室で会う約束をする。わくわくしながらヘレエネを待っているところへ、マッシャが現れる。久しぶりに描きたくなったのでモデルをやってくれ、と前日言っておいたからだった。しかし今の彼はそれどころではなく、令嬢のために花と果物を買ってきてほしい、とマッシャに頼む。マッシャは前日、彼の留守中に画室をきれいに掃除しておいたのだが、画家はそのことにもすぐには気がつかない。しかし画室にやってきたヘレエネはすべてを見抜く。非常に利発で、思慮深く、弁の立つ令嬢なのだ。ヘレエネから「家常茶飯」の価値を諄々と諭された画家は、初めてまともにマッシャに向き合うのだった。(2009.8.3記)

☆この作品は「青空文庫」で読みました。上の画像はちくま文庫のものです。
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by nishinayuu | 2009-09-17 14:40 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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