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『旅の終わりの音楽』(エリック・フォスネス・ハンセン著、村松潔訳、新潮クレスト文庫)

c0077412_9412231.jpg1912年4月14日23時40分、北大西洋で氷山と衝突したタイタニック号の船上で、最後まで演奏を続けて船とともに海に消えた楽士たちの物語。処女航海に乗り出したタイタニック号の豪華な船内の様子やら、そこに乗り合わせたさまざまな階層の乗客たちの姿やら、時々刻々の海の様子やらも描かれているが、それらはあくまでも背景、もしくは伴奏部分である。主旋律を奏でるのは、あちこちから大慌てで寄せ集められ、にわか仕立ての楽団の構成員としてこの運命の船に乗りあわせた楽士たちである。
7人の楽団員のうち、この物語で詳しく紹介されているのは以下の5人。
ジェイソン・カワード(バンドマスター):ロンドン出身。天文学を愛する父と音楽を愛する母のもとで送った幸せな少年時代は、今では遙かかなたの思い出となっている。
アレキサンダー・ビエズニコフ(第一ヴァイオリン):ペテルブルグ出身。ふとしたことから悪行に手を染めてしまい、国外逃亡する羽目に。病に冒された今、ずっと昔に書くべきだった弟宛の手紙を書く。
スポット・ハウプトマン(ピアノ):ドイツ出身。ヴァイオリンとピアノを弾きこなす天才少年で、最高のソリストになれる可能性を持っていた。しかし彼は作曲家をめざし……挫折した。
ダビット・ブライエルンシュテルン(第二ヴァイオリン):ウイーン出身。自由な雰囲気の豊かなユダヤ人家庭で育った青年。実りのない恋を経験し、心の整理がつかないまま家を出てきた。
ペトロニウス・ウィット(ベース):イタリア出身。他の人には見えないものが見える少年だった。旅回りの人形劇一座に加わってあちこち巡り歩き、運命に導かれるようにしてタイタニック号に辿り着く。

楽士の物語なので、全編に作曲者名や曲名があふれている。たとえばこんな具合に。
海が荒れている時には、ある種の音楽は避けた方が無難だった。風が強い時〈ホフマン物語〉を演奏すると、嘔吐する老婦人がいるのだが(後略)。
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by nishinayuu | 2009-09-10 09:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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