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『狂った旋律』(パオロ・マウレンシグ著、大久保昭男訳、草思社)

c0077412_9284278.jpg一挺のヴァイオリンをめぐって繰り広げられる数奇な物語。作者は1943年にイタリア東北端のゴリツィアに生まれ、雑多な仕事を経たあと50歳で作家デビューしたという。第二作目であるこの作品は、初めの語り手が次の語り手へ、それがまた第三の語り手へ、とバトンタッチして行く形式で展開して行き、最後の語り手のところにきてやっと物語の全体像が見えてくる、というミステリー的な仕立てになっている。

最初の語り手である「私」はロンドンのオークションで17世紀チロル産のヴァイオリンを手に入れる。添付の説明書には、この楽器の最後の所有者として、「私」のよく知っている精神病院の名が記されていた。「私」がこの楽器との出会いを存分に楽しもうとしていたとき、突然ひとりの男が尋ねてくる。
第二の語り手である来訪者は、この楽器への執着心のために尋ねてきたのだった。この第二の「私」は、この楽器はある物語に関係があるもので、それを話してくれた人物が生身の人間として生きていたことの証でもある、と言ってその人物について語り始める。バッハ生誕300年のウィーンで「私」が出合ったその人物は、安酒場をまわって歩く流しの芸人で、完璧とも言えるほど見事にヴァイオリンを操っていた。年齢不詳だが、50はとっくに過ぎていると思われた。
第三の語り手の「私」は当の流しの芸人で、名はイエネー・ヴァルガ。ハンガリーの小村で父親を知らずに育つ。ヴァイオリンは戦場で行方不明になったという父親の形見の品だった。ヴァイオリンに見せられた「私」は子供用のヴァイオリンを与えられて以来めきめき腕を上げ、ついには名門音楽学校で学ぶ身となる。寄宿制の抑圧的なこの学校で得た唯一の友人、クーノ・ブラウの招待で、「私」はブラウ家に滞在することになる。城館のような邸宅と貴族的人びと……夢のように始まったこの滞在が、「私」の運命を変える。
そして第四(?)の語り手の登場となって物語は終わる。

話のおもしろさと翻訳文のすばらしさで一気に読ませる小説である。が、弘法も筆の誤りのようなおかしな文が見つかって、とても気になったので記録しておく。
第三の語り手が語っている部分に出てくる文。「とりわけ、調理場で働いていて、食事の時間になると、大鍋を載せた台車を押しながら私たちのアルミの皿にスープを注いでまわる女たちは、憐憫の思いのあらわな目で私たちを見やることがときどきでした。」(2009.6.28記)
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by nishinayuu | 2009-08-13 09:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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