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『ウォーターランド』(グレアム・スウィフト著、真野泰訳、新潮クレストブックス)

c0077412_1095952.jpg語り手は南ロンドンの高校に勤務する52歳の歴史教師。「一身上の都合」という名目で学校を追われようとしている彼は、正規のカリキュラムを無視した独自の授業を展開する。
きっかけはプライスという生徒の「いったい歴史になんの意味があるんですか……歴史についてただ一つ重要なのは、それがもうじき終焉を迎える、おそらくそういう段階にさしかかっているということだけです」という発言だった。生徒たちの間に伝播しつつある恐怖の徴候を鎮めるためには、歴史より「おとぎ話」が必要だと考えたからだ。「おとぎ話」を語ることは、生徒たちと切り離されて、自分のため込んだ一生の物語の聞き手を失おうとしている自分の心を鎮めるためでもあった。
「実態を有しつつ非現実的でなければならないおとぎ話の舞台」として彼が選んだのはフェンズ――イングランド東部の低湿地帯、すなわちウォーターランドだった。 こうして彼は生徒たちに「子どもたちよ」と呼びかけながら、父祖の地であり、彼と妻が生まれ育った土地であるフェンズについて語り始める。 historyを放り出して語る彼のstoryは、いつの間にかstoryとhistoryが渾然一体となった壮大な「歴史の授業」となって生徒たちを魅了していく。
作者は1949年生まれ。英語教師を経て80年に作家デビュー、この作品でガーディアン小説賞、『ラストオーダー』でブッカー賞を受賞している。(2009.6.1記)

☆この翻訳本は519ページもあって、とても読みでがありました。ところで、p.208にフェンズゆかりの作家としてチャールズ・キングズリーの名前が出てきます。今、『The Water Babies』を読んでいるところなので、何となく嬉しくなりました。
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by nishinayuu | 2009-07-21 10:10 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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