『オディール』(レーモン・クノー著、宮川明子訳、月曜社)
2009年 07月 14日
巻頭に【『オディール』のパリ】と題した地図が掲げられており、レピュブリック広場を中心とした地域―ボーマルシェ大通り、グラン・ブールヴァール、フォーブール・モンマルトル通り、デルタ通り―などをロランといっしょに歩いているつもりで読むといっそう興味深く読める。
物語の冒頭に現れる「詩人のように、哲学者のように曠野と空を見つめるひとりのアラブ人」は、モロッコの独立戦争を率いた族長であろう。侵略者側の兵士としてこの闘いに加わったロランは、それ以前の人生20年間の記憶を失うほどの不幸を経験する。兵士仲間だったコミュニストのGやSとパリで再会。そのつてで共産党シンパのサクセルと知り合い、さらに彼の紹介である有力なグループを率いるカリスマ的存在・アングラレスとの交流が始まる――という具合にロランの交友関係の広がりとその展開が描かれていく。人物や言葉、出来事が錯綜して時々迷子になりそうになるが、ある時代のパリの雰囲気は確実に伝わってくる。
巻末に非常に詳しい解説があり、登場人物や出来事のモデルがわかる。モデル小説を嫌った作者の唯一とも言えるモデル小説であり、自伝的要素の強い作品だという。(2009.5.24記)