『心映えの記』(太田治子著、中央公論社)
2009年 06月 27日
読んでいてあまり気持ちのよい本ではなかったという記憶があったが、今回は語り手の自意識過剰なところも、母親に向ける目の辛辣なところも、内にこめられた謙虚さと優しさと愛情の一つの表現であるように感じられ、共感を覚えながら読んだ。太宰の影を引きずらずに生きてきた母親の、凛とした人となりが鮮やかに浮かび上がる。
巻末に掲げられた写真でも明らかなように、著者はどう見ても父親そっくり。ここまで似ていては父親の影を引きずらずに生きるのはさぞ難しいだろうと同情せずにはいられない。著者に「美人意識」があるのは御同慶の至りである。(2009.4.13記)