『かあさんをお願い』(申京淑著)

c0077412_1048217.jpg『엄마를 부탁해』(신경숙著、창비)
韓国の作家・申京淑が2008年11月に発表した作品。
『離れ部屋』に描かれた家族と重なるある家族の母親が、ソウル駅で地下鉄に乗り損ない、そのまま行方不明になってしまう。歩みの遅い妻を待たずに地下鉄に乗ってしまった父親、駅まで迎えに行かなかった息子や娘たちはその時初めて、妻であり母親である彼女を見失う以前に、彼女のことをずっと「忘れて」暮らしていたことに気づいたのだった。
第1章では「おまえ」という呼称で登場する長女、第2章では「彼」という呼称で登場する長兄、第3章では「あなた」という呼称で登場する父親が語ることばによって、失踪した妻・母親の人となりや家族の歴史が明かされていく。そして第4章には母親自身が一人称で現れて、母親としての喜びを味合わせてくれた次女を見守り、自分の生きてきた道を振り返る。エピローグには再び長女が「おまえ」として登場し、「かあさんをよろしく」という祈りのことばで締めくくる。
第1章の「おまえ」は、多和田葉子の『容疑者の夜行列車』の「あなた」のようにも読めるが、第2章に入るとそうではないことがわかる。すべての呼称の主体は妻・母親なのだ。農家に嫁いで労働と子育てに明け暮れ、夫からも子どもたちからも空気のように思われて老年に到った一人の女性の、切なく哀れな、それでいて実は喜びと幸せにあふれた生涯を情感豊かに描いたすばらしい作品である。(2009.4.6記)
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by nishinayuu | 2009-06-13 10:02 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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