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『ひとの子――神に挑む者』(李文烈著、安宇植訳、集英社)

c0077412_101797.jpg物語は殺人事件に始まり、捜査官が犯人を求めて地道に捜査を続け、ついに犯人にたどり着く、という推理小説仕立てになっている。が、紙幅の大半は被害者が原稿の形で残した物語に当てられている。
その原稿に残された物語の主人公は、イエス・キリストの同時代人であったアハシュ・フェルツ。彼は「ひとの子」と呼ばれているイエス・キリストに疑問を抱いて真実を突き止めようと試みた、真の「ひとの子」であった。すなわち彼はイエス・キリストは人類の救世主となるべく遣わされた「ひとの子」ではなく、理不尽な神ヤハヴェ(エホバ)の意思を体現した存在、理不尽な神そのものであることを見抜いたのだった。
アハシュ・フェルツという驚くべき思考力と行動力を持った人物と、そんな人物を描き出した被害者との関係は?そして被害者はなぜ無惨に殺されねばならなかったのか? 謎は最後の最後まで明らかにされないまま、読者は長い長い作中物語に付き合わされることになる。推理小説だと思って読むと退屈する。キリスト教論だと心得て読めばそれなりに面白く読める。

この本は1996年の発行だが、原書の発表は1979年。当時、朴正煕政権下にあった韓国は人口の1/4がキリスト教徒という状況にありながら、社会正義とはほど遠い社会だったという。この作品が韓国で多くの読者を得たのはそうした社会状況があったからだろう。なお、李文烈はこの作品で「今日の作家賞」を受賞している。(2009.3.23記)
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by nishinayuu | 2009-06-04 10:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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