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『離れ部屋』 申京淑

c0077412_101205.jpg『외딴방』(신경숙著、 문학동네)1963年生まれの韓国の作家・申京淑が1995年に発表した長編小説。『離れ部屋』というタイトルで邦訳が出ている。
この作品は「事実でもフィクションでもなくその間あたりのものになりそうな予感がある…」という文に始まり、「事実でもフィクションでもなくその間あたりのものになったようだ」という文で終わっている。ということはここに書かれた出来事はある程度著者の経験したことと重なり、主人公の「わたし」の思いはある程度著者の思いと重なると考えられる。作家・申京淑が誕生するまでの過程や、深く関わった人たち、影響を受けた作品などもわかって興味深い。

「感動的な労働小説」(문학동네)、「少し前の一時代を衝撃的に形象化した証言録」(남진우)などの評からもわかるとおり、話の中心は地方の中学校を卒業した「わたし」が、ソウルの東部にある九老工業団地で女子工員として働いた1978年から1980年代初めにかけての数年間。朴正煕政権末期の政治抗争の中で、労働運動への弾圧も頻発した時代だった。恵まれた農家の暮らしから、都会の下層労働者の生活へと投げ出された「わたし」だったが、それでもなんとか大学に進学し、やがて作家になる夢も実現できた。しかし作家となった「わたし」はずっと、女子工員時代を封印してきた。それは自分にそんな時代があったことを恥じているからではなかった。立ち返るのが恐ろしい、ある事情があったのだ。

ミステリーのような展開を見せるこの作品において、もうひとつ印象的なのは、家族や親戚同士の繋がりの強さである。中でも「わたし」の長兄が、幼い女子工員であった「わたし」や、「わたし」の親友でもあり姉のようでもある従姉妹、そして学生という立場にあって社会の不正と戦わずにはいられなかった3番目の兄を導き、守る姿は感動的である。(2009.3.17記)
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by nishinayuu | 2009-05-30 10:12 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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