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『フランスの遺言書』(アンドレイ・マキーヌ著、星埜守之訳、水声社)

c0077412_1025412.jpg著者が『ある人生の音楽』より前の1995年に発表した作品。その年にフランスの代表的な文学賞であるメディシス賞、ゴンクール賞、高校生のゴンクール賞の三つを受賞している。
著者はシベリアで生まれ、モスクワ大学で文学博士号を取得したあと、ノブゴロドで文献学を教えていたが、1987年にペレストロイカまっただ中のソ連を出てフランスに渡り、以降、フランス語で作家活動を続けている「ロシア系作家」である。本書は著者自身が作家になるまでの道のりを辿りなおしたもので、多くの自伝的要素が取り入れられている。(以上、訳者のあとがきから要約)

主人公は語り手である「ぼく」であるが、「ぼく」と並ぶもう一人の主人公といえるのが祖母のシャルロットである。フランス人の両親を持つシャルロットは、1903年にシベリアで生まれ、1910年代をパリの高級住宅街ヌイィーで過ごし、ロシア革命後にシベリアに戻ってきた。シベリアの大地でロシア的な物や人びとの中に根を下ろしながらも、パリの「美しき時代」を体験したフランス人であり続けたシャルロット。この祖母からフランス的なものを受け継いだ「ぼく」だったが、成長するにつれて一時はロシアの方に大きく振れて祖母に反発を覚えたりもする。そんな「ぼく」が再び見出す揺るぎのない祖母の世界。やがて「ぼく」は祖国から逃れるようにしてフランスに旅立つ。

激動の時代を、遠く隔たった2つの国で生きたシャルロットの数奇な人生と、そこから派生した「ぼく」の数奇な人生が、繊細なことばと流れるように美しい文で綴られた忘れがたい物語。(2009.3.15記)
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by nishinayuu | 2009-05-28 10:25 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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