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『ポトスライムの舟』(津村記久子著、講談社)

c0077412_13523947.jpg第140回芥川賞の受賞作。表題作のあとに『十二月の窓辺』が収録されている。
だれかがどこかに、時間の流れから考えるとまず『十二月の窓辺』を読んでから『ポトスライムの舟』を読んだ方がよい、と書いていたので、おすすめにしたがってまず『十二月の窓辺』を読んでみた。
すさまじいモラルハラスメントの世界が繰り広げられていて、V係長の品性のなさに驚き、執拗さにあきれ、黙ってみている社員たちに腹が立ち、やられっぱなしのツガワがじれったくてたまらなかった。たとえ自分の方が正しくても、暴力的な人間、理屈の通らない人間に立ち向かうことは難しい。自分が壊れる前に逃げ出すしかない。その点ツガワは、自分が正しい、と言えるだけの自信もなく、就職難でもあったため、ずるずると事態を長引かせてしまったのだ。もう少しで手遅れになるところだった。

『ポトスライムの舟』にはそれから何年かあとのツガワが、相変わらずかっこよくとはいかないけれど、けっこう前向きな姿で立ち現れる。工場の契約社員としてベルト・コンベアの前に立ち、友人のカフェで給仕のパートをし、家ではパソコンでデータ入力の内職をし、土曜はパソコン教室の講師をしている。「時間を金で売っているような気がする」けれど、「今がいちばんの働き盛り」ということばを唱えてしのぐ。
会社の掲示板にいつの間にか2枚のポスターが貼られている。軽うつ病患者の相互扶助を呼びかけるポスターからは反射的に目をそらして、もう一枚を見る。「世界を見よう、世界と話そう、語り合おう」という世界一周クルージングのポスターだった。費用は163万円。会社からもらう給料の一年分である。その日から彼女は貯金をはじめる。ところが学生時代の友人から誘われて思わぬ出費をしたり、別の友人が子連れで家に転がり込んできてまたまた出費がかさんだり。今彼女は、自分を励ましてくれる人ばかりでなく自分が励ましてやるべき人たちに囲まれているのだった。(2009.3.7記)
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by nishinayuu | 2009-05-26 13:52 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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