『ある人生の音楽』(アンドレイ・マキーヌ著、星埜守之訳、水声社)

c0077412_21331255.jpg四半世紀ほど前のある日、語り手(ぼく)は極東の旅からの帰途、吹雪にふり込められたウラル山中のどこかの駅で、いつ来るともしれない列車を待っていた。待合室の中で、何もかも諦めているようないかにもソヴィエト的な人間(ホモ・ソヴィエティクス)の集団を観察しながら哲学的な憤りを感じていたぼくの耳に、突然そんな憤りを無益なものにしてしまう美しい音楽が聞こえてくる。音の出所を探りながら駅舎の奥の一室にたどり着いたぼくは、そこにグランドピアノに向かう一人の男を発見する。音を立てないように鍵盤の上で指を走らせていた男は、うっかり音を出してしまうと、囁くような小さな笑い声を漏らし、口許に手を当てて笑いで咳き込むのを押さえようとした。その瞬間、ぼくは男が泣いていることを理解したのだった。
翌朝やっと列車が来たとき、すさまじい混雑の中でその男が自分の隣にぼくの席を見つけてくれた。こうしてぼくは列車がモスクワに到着するまでの間に、男のたどってきた半生の物語を知ることになる。

スターリン時代を背景に、約束されていたピアニストへの道を閉ざされ、他人になりすまして生きていくことを余儀なくされた一人の男を描いた、いたましくも感動的な物語。(2009.2.17記)
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by nishinayuu | 2009-05-14 21:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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