『帰郷者』(ベルンハルト・シュリンク著、松永美穂訳、新潮クレストブックス)

c0077412_9412611.jpgあの『朗読者』の作者が2006年に発表し、2008年11月に邦訳が出版された作品。
語り手であるペーターは母一人子一人の家庭で育った。子どものころはいつもスイスの祖父母のところで休暇を過ごしていた。祖父母は当時、「喜びと娯楽のための小説」という雑誌を編集していて、ペーターがあるとき原稿の断片を読んでみると、それは帰還兵の物語だったが、結末の部分が欠けていた。
大学を出て出版社で編集の仕事を始めたころ、ペーターは引っ越し荷物の中に懐かしい感触の紙を発見する。そこには例の帰還兵の物語が印刷されていた。が、このときも結末の部分は見つからなかった。結末が知りたい一心で探索を始めたペーターはやがて、物語の主人公が帰還して妻と新しい夫に出会うことになった家が、実は自分の知っている家であることを知って驚く。さらに探索を続けるうちに、この帰還兵の物語が『オデュッセイア』を下敷きにして書かれていることもわかってくる。こうして、物語の結末はどうなるのか、という興味から始まったペーターの探索は、物語の作者を知るための探索へと移っていく。帰還兵のカールから始まったペーターの探索の旅は、まずフォルカー・フォンランデンという人物に行き着き、そしてついにコロンビア大学の法学者であるジョン・ド・バウアー教授に辿り着いたのだった。出あった人びとをことごとく魅了し、強い印象を残すこの人物は、ナチスの時代を体制側について切り抜け、戦後は故郷も両親も妻も子も捨てて、過去を振り返ることなく新しい人生を生きていた。
この探索の旅でペーターは、一度は見出したかと思われた父を再び失い、それと同時に母も失うことになるが、オデュッセウスならぬ彼には留まるべき故郷があり、ともに歩むべき女性がいたのだった。
(2009.2.3記)
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by nishinayuu | 2009-04-30 09:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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