『収容所に生まれた僕は愛を知らない』(申東赫著、李洋秀訳、KKベストセラーズ)
2009年 04月 18日
1982年に「完全統制区域」で収容者夫婦の第二子として生まれた著者は、幼児期は母親とともに暮らしたが、親子の情というものは知らずに育った。父親とはたまにしか会わないし、母親は厳しい労働のせいでいつも疲れ果てていた。学校では読み書きと足し算引き算を習っただけで、毎日労働にかり出された。ノルマが達成できないと罰として、普段でも乏しい食べ物がさらに減らされるので、いつも飢えていた。16歳になると収容所内の職場に配置され、事故や病気で死ぬまで酷使され続けるのだった。
人はひどく痛めつけられるとそれに堪えるのが精一杯で、抵抗する気力を失ってしまう。「完全統制区域」の囚人たちはまさしくそういう状態にあって、絶望的な日々を送っている。それは実におぞましいことであるが、「完全統制区域」にいたときの著者は、そもそも「絶望的」ということばさえも知らなかったという。大人の囚人たちと違って、「完全統制区域」で生まれて他の世界をまったく知らない子どもたちは、ぼろ屑のように使い捨てられる自分たちの運命を「絶望的」だと認識することもできないのだ。そんな子どもたちが存在するということを多くの人に知らしめるために書かれた本である。
ただし、韓国では本書の内容の信憑性を否定的に見る専門家が多い、という情報もある。フィクションの全くないノンフィクションはない、と思って読めば間違いない。(2009.1.25記)