『丹生都比売』(梨木香歩著、原生林)
2009年 03月 03日
「そなたは私の方の筋じゃ。私や、幼くして死んだ弟の建皇子の。大王家には二つの血の流れがある。大津やそなたの母は、その別の筋じゃ。そなたの母上は、小さいころから、昇る朝日のように強くたじろがず、迷いのない方だった。おじい様とそなたの母上はよう似ていらっしゃる。私は鸕野讃良を、恐ろしいと思うこともあったけれど……」
引用文中にある「おじいさま」はもちろん天智天皇。天智天皇、鸕野讃良皇女、大津皇子らは表舞台で活躍する器の人で、草壁皇子や自分は主役にはなれない人だと大田皇女は言うのである。そんな草壁を主役に、史実と幻想をない交ぜにした物語が繰り広げられる。(2008.12.11記)