『至福の味』(ミュリエル・バルベリ著、高橋利絵子訳、早川書房)
2009年 02月 07日
ストーリーはごく単純で、美食の限りを尽くしてきた料理評論家が死の床で、かつて味わった懐かしいある味を思い出そうと辛苦した末、やっとその至福の味に辿り着く、というもので最後は「アーメン。わたしは、もう息絶える」で終わっている。
主人公の料理評論家は「グルネル通り、寝室」に横たわって回想に耽っている。その周りでは、たとえば「グルネル通り、管理人室」では管理人のルネが、「グルネル通り、階段」では娘のローラが、「カフェ・デザミ、18区」では息子のジャンが、というように彼に関わりのある人たち、さらには、猫やら書斎のヴィーナス像までが彼についての思いを語る。彼らの語りによって主人公の人となりが明かされていく仕組みになっているのだ。
ユニークなのは全体の構成で、「グルネル通り、寝室」とそのほかの場所が交互に出てくること、すなわち至福の味を求めて苦悩する主人公と、その彼を憎み、蔑み、怖れ、敬い、愛したりしている人びとが交互に登場することである。このすっきりした構成のおかげで、非常に明快かつ軽快な作品になっている。(2008.11.9記)