『となり町戦争』(三崎亜紀著、集英社)

c0077412_10371147.jpgなんの予備知識もないまま、タイトルを見た時に感じたのは「隣の町と何かいざこざがあって、紛糾し、やがて収束するという、どこにでもありそうな状況を描いた小説」かな、ということだった。ただ、どこかの書評に取り上げられていたという記憶があったので、それなりに読みではあるに違いないと予想して読んでみた。確かに読みでがあった。ただし、現実にはない状況をどこにでもありそうに描いた小説だった。
僕(北原修司)はある日、町の広報でとなり町との戦争が始まったことを知るが、どこにも戦争の気配は見られない。戦争といっても人びとが殺し合う戦争ではなく、抽象的な意味での戦争なのかも知れない、と僕が思い始めた時、広報に戦死者12人の数字を発見する。それでも日常生活に特に変化はないまま1ヶ月が過ぎたとき、僕のもとに「戦時特別偵察業務従業者」の任命書が役所から届く。それからも僕のところには役所からの指示が次々に届き、僕はそれにしたがって行動することになる。
なぜとなりの町と戦争をするのか。だれがどうやって戦っているのか、僕にはまったく見えてこない。けれども見えないところで戦争は確実に進行していくのだった。やがて僕は自覚のないままに戦争に巻き込まれたと思っていた自分が、実は戦争に荷担していたことを知ることになる。

マニュアル通りに思考し、マニュアル通りに行動するサイボーグのような女性、空に浮かぶクィア座という天体などSF的なところがあると思えば、役所の上意下達、形式主義を徹底的にちゃかしている風刺小説的なところもあり、恋愛小説的なところもあって盛りだくさん。(2008.1029記)

☆完璧で優秀な公務員である香西さんという女性、形が決まっていてどうでもいいことも書き込まなくてはならない文書、という世間の人のイメージするお役人やお役所が詳細に描き込んである点が、いちばん愉快でした。著者は役所勤めの経験者ですね、きっと。
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by nishinayuu | 2009-01-24 10:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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