『奇妙な季節』(ジャン=マルク・ロベール箸、平岡敦訳、東京創元社)

c0077412_1233182.jpg主人公ルイ・コリーヌは17、8頃まで、母、祖母のイェット、犬のフィレモンといっしょに住んでいた。あまりぱっとしない女優の母はルイに「おまえだけが私の成功作よ」と言っていた。ルイはバカロレアのあと、大学へは行かず、祖父の残した切手を切り売りして暮らしていたが、25の時に結婚したニナの両親の紹介で、デパートに就職した。宣伝部に配属されたが、上司のためにスパイのようなことをやる以外は決まった仕事がなく、適当に時間をつぶす毎日だった。そんなある日、デパートに新しい社長ベルトランがやってくる。一介の教師からデパートの社長にまでなったベルトランは謎めいた人物だった。このカリスマ的な人物にルイはすっかり魅せられてしまい、彼に抜擢されたことで舞い上がってしまう。いつもベルトランの傍らにいるポールとフランソワが羨ましくてたまらないルイは、自分も彼らのようになりたいと願う。ルイがベルトランの方ばかりむいている間に、友人たちは去り、やがて妻のニナも去っていく。

訳者によれば「確たるアイデンティティーを持ち得ないまま、カリスマ的な力に引きつけられて自己を見失っていく若者の不安を描いた現代の寓話」だという。ベルトランは別にカリスマでもなければ謎の人物でもない。ポールはそれに気がついたからこそ早いうちに彼から離れていったのだろう。若いルイが惑わされたのはわかるが、長年ベルトランにぴったりくっついていたフランソワが、あっさり捨てられるまで何も気づかないとは。謎が多いのはベルトランよりフランソワのほうである。(2008.10.14記)
[PR]
by nishinayuu | 2009-01-10 12:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/10564925
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『ガブリエル・アンジェリコの恋... 映画鑑賞ノート5 (2009.... >>