『東京タワー』(リリー・フランキー著、扶桑社)
2008年 12月 30日
副題に「オカンとボクと、時々、オトン」とあるように、オカンとボクの濃密で温かい関わりと、一年に何度か顔を合わせるだけのオトンとの淡いながらも緊張感のある関係が描かれている。
話はボクの子どもの頃から始まり、高校進学とともにオカンの家を離れ、大学進学とともにふるさとを離れて東京に出て、卒業しても職や家を転転とするさまが、話し言葉を基調にした文体で軽快に綴られていく。多くの場合、小さい頃は絶対的な存在であった母親も、やがてただの普通の人になり、時には面倒な存在になったりするものだが、ボクにとってのオカンはいつまでも何物にも代え難い大切な存在であり続ける。オカンがひたすらボクのために生きた人であったから、ということもあるが、ボクがオカンを思う気持ちも並たいていのものではない。実に感動的な母と息子の関係ではある。
それに比べるとオトンは分が悪い。はじめに母と子の暮らしの外にいる得体の知れない男として登場したオトンは、ボクにとってはいつまで経っても得体の知れない男のままなのだ。ただし、オカンにとっては得体の知れない男ではなかったことが、ずっと後のほうになって種明かしされる。それで副題には、時々という条件付きながら、オトンもチャンと家族の一員として扱われているわけだ。(2008.10.4記)