『アラン島』(J.M.シング著、栩木伸明訳、みすず書房)
2008年 12月 04日
W.B.イェイツにすすめられてこの地を訪れたシングは、島の人びととその暮らし、島に残る伝承に魅せられ、「島での僕の暮らしと、そこで出合ったさまざまなことについての率直な報告」としてこの本を書き、後にはこのときの体験や聞き書きをもとにしたいくつかの戯曲で世に知られるようになった。シングはアラン島の名をひろく世界に知らしめ、アラン島はシングの名をひろく世界に知らしめたと言ってもいいだろう。
アラン島はイニシュモア(アランモアともいう)、イニシュマーン、イニシーアという三つの島からなり、本土との交通手段はフッカー(一本マストの舟)、島と島の往来や漁にはカラッハ(島カヌー)が使われる。天候の変わりやすい海で操業する男たちは常に命の危険にさらされている。陸地には風よけの石積みが到る所に巡らされており、乏しい土に海藻を混ぜてほそぼそと畑作をしている。そんな最果ての厳しい土地柄ではあるが、一方では伝承詩や伝承物語の宝庫でもある。また、ここには分業というものがなく、だれもが生活に必要なことはなんでも自分でやってのける。人びとは独特のアイルランド語を話すが、実はだれもが英語も話せるバイリンガルである……などなど、著者は島の人びとの中に入り込んで、目にとまったこと、体験したことを書き留めていく。こうしてアラン島の魅力と、アラン島を愛しアラン島に愛されたシングの人柄が明らかにされていくのである。ふんだんに挿入されている絵も味があっていい。(2008.9.8記)
☆本書にはよく妖精の話が出てきます。アラン島の妖精というのは幻のように現れたり、人間に幻を見せて混乱させたり恐がらせたりしますから、日本の狐のようなものですね。